電池から来る電流を針金に通して磁石を作り、この際に[#「この際に」に傍点]他の針金に何等の作用があるかを調べた。しかし、その作用は充分に認められなかった[#「充分に認められなかった」に傍点]。それから銅線の長いのや、短いので実験を繰り返し、また電磁石の代りに棒磁石でもやって見たが、やはり作用が充分に認められなかった[#「充分に認められなかった」に傍点]。
その次に実験したのは十月一日[#「十月一日」に傍点]で、ファラデーの手帳には次のごとく書いてある。
「三十六節。四インチ四方の板を十対ずつもつ電池の十組を硫酸、硝酸の混合で電流を起し、次の実験を次の順序に従って行った。
「三十七節。コイルの一つ(二百三フィートの長さの銅線のコイル)を平たいコイルに繋《つ》なぎ、また他のコイルは(前のと同じ長さのコイルで、同種な木の片に巻いた)電池の極につなぐ[#「つなぐ」に傍点]。この二つのコイルの間に金属の接触のないことは確めて置いた。このとき[#「このとき」に傍点]平たいコイルの所にある磁石が極めて少し動く[#「極めて少し動く」に傍点]。しかし、見難いほど少しである。
「三十八節。平たいコイルの代りに、電流計[#「電流計」に傍点]を用いた。そうすると、電池の極へつなぐ時と、切る時とで衝動[#「衝動」に傍点]を感ずるが、これも見難いほどわずかである。電池へつないだ時は一方[#「一方」に傍点]に動き、切る時は反対の方[#「反対の方」に傍点]に動く。平常はこの中間[#「中間」に傍点]に磁石がいる。
「それゆえに鉄は存在しないが、感応作用があって[#「感応作用があって」に傍点]磁針を動すのである。しかし、それはごく弱いのか、さもなくば充分な時間がない位に瞬間的のものである[#「瞬間的のものである」に傍点]。多分この後の方であろう。」
その次に実験したのは十月十七日[#「十月十七日」に傍点]で、磁石を遠ざけたり[#「磁石を遠ざけたり」に傍点]、近づけたりして[#「近づけたりして」に傍点]、これが針金に感応して電流の生ずるのを確かめた[#「これが針金に感応して電流の生ずるのを確かめた」に傍点]。
これで、以前の実験において結果が出なかったのは、磁石とコイルが共に静止しておったためだと分った。実際、磁石はコイルの傍に十年置いても、百年置いても、電流を生じない。しかし、少しでも動けば[#「少しでも動けば」に傍点]、すぐに電流を生ずるのであるから。
その次に実験したのは十月二十八日[#「十月二十八日」に傍点]で、大きな馬蹄形の磁石の極の間で、銅板を廻し、銅板の中心と縁《ふち》とを針金で電流計につないで置き、電流計が動く[#「動く」に傍点]のを見た。
その次の実験は十一月四日[#「十一月四日」に傍点]で、手帳に「銅線の八分の一インチの長さのを磁極と導体との間で動すとき作用あり」と書いた。また針金が「磁気線を切る」と書いた。この磁気線[#「磁気線」に傍点]というのは、鉄粉で眼に見られるように現わすことの出来る磁気指力線のことである。なお一歩進んで、この磁気線で感応作用を定量的[#「定量的」に傍点]に表わすことは、ずっと後になって、すなわち一八五一年にファラデーが研究した。
九 結果の発表
かように、約十回の実験で[#「約十回の実験で」に傍点]、感応作用が発見された。実験室の手帳を書き直おして、ローヤル・ソサイテーに送り、一八三一年十一月二十四日[#「十一月二十四日」に傍点]にその会で読んだ。しかし、印刷物として出したのは、翌年一月で、そのためにあるイタリア人との間に、ちょっと面倒な事件が持ち上った。
この論文は「電気の実験研究」の第一篇[#「第一篇」に傍点]におさめてある。実験したときの手帳に書いてあるのと比較すると、文章においてはほとんど逐語的に同じであるが、順序に[#「順序に」に傍点]おいて少し違っている。実験した順序は[#「実験した順序は」に傍点]、今述べたように、磁石から電流を生ずるのを前に試みて、それから電流が他の電流に感応するのを、やったのである。しかし、論文の方[#「論文の方」に傍点]には、電流の感応の方を前に書いて、感応の事柄を概説し、しかる後に、磁石の起す感応電流のことを記してある。
この発見をしてから、ファラデーは友人を招いて、その実験を見せた。その際、マヨーの作った歌がある。
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ファラデーの磁石を廻りて、
確かに流るるボルタの電気。
さて針金に取り出すその術《すべ》は、
ファラデーが手本にしたのは愛情で、
二人が逢う刹那《せつな》と別るる刹那、
飛出す火花は電気じゃないか。
[#ここで字下げ終わり]
ファラデーはローヤル・ソサイテーで、自分の論文を発表してから、英国の南海岸のブライトン
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