くは、一|半《はん》は佛教《ぶつけう》から一|半《はん》は道教《だうけう》の仙術《せんじゆつ》から出《で》たものと思《おも》はれる。
日本《にほん》が化物《ばけもの》の貧弱《ひんじやく》なのに對《たい》して、支那《しな》に入《い》ると全《まつた》く異《ことな》る、支那《しな》はあの通《とほ》り尨大《ぼうだい》な國《くに》であつて、西《にし》には崑崙雪山《こんろんせつざん》の諸峰《しよぼう》が際涯《はてし》なく連《つらな》り、あの深《ふか》い山岳《さんがく》の奧《おく》には屹度《きつと》何《なに》か怖《おそろ》しいものが潛《ひそ》んでゐるに相違《さうゐ》ないと考《かんが》へた。北《きた》にはゴビの大沙漠《だいさばく》があつて、これにも何《なに》か怪物《くわいぶつ》が居《ゐ》るだらうと考《かんが》へた。彼等《かれら》はゴビの沙漠《さばく》から來《く》る風《かぜ》は惡魔《あくま》の吐息《といき》だと考《かんが》へたのであらう。斯《か》くて支那《しな》には昔《むかし》から化物思想《ばけものしさう》が非常《ひぜう》に發達《はつたつ》し中《なか》には極《きは》めて雄大《ゆうだい》なものがある。尤《もつと》も儒教《じゆけう》の方《はう》では孔子《こうし》も怪力亂神《くわいりきらんしん》を語《かた》らず、鬼神妖怪《きじんえうくわい》を説《と》かないが道教《だうけう》の方《はう》では盛《さかん》に之《これ》を唱道《しやうだう》するのである。
[#彫刻に表された化物の写真(fig46337_01.png)入る]
形《かたち》に現《あら》はされたもので、最《もつと》も古《ふる》いと思《おも》はれるものは山東省《さんとうしやう》の武氏祠《ぶしし》の浮彫《うきぼり》や毛彫《けぼり》のやうな繪《ゑ》で、是《これ》は後漢時代《ごかんじだい》のものであるが、其《その》化物《ばけもの》は何《いづ》れも奇々怪々《きゝくわい/\》を極《きは》めたものである。山海經《さんかいけう》を見《み》ても極《きは》めて荒唐無稽《くわうたうむけい》なものが多《おほ》い。小説《せうせつ》では西遊記《さいいうき》などにも、到《いた》る處《ところ》痛烈《つうれつ》なる化物思想《ばけものしさう》が横溢《わうえつ》して居《ゐ》る。歴史《れきし》で見《み》ても最初《さいしよ》から出《で》て來《く》る伏羲氏《ふくぎし》が蛇身《じやしん》人首《じんしゆ》であつて、神農氏《しんのうし》が人身《じんしん》牛首《ぎうしゆ》である。恁《こ》ういふ風《ふう》に支那人《しなじん》は太古《たいこ》から化物《ばけもの》を想像《さうざう》する力《ちから》が非常《ひぜう》に強《つよ》かつた。是皆《これみな》國土《こくど》の關係《くわんけい》による事《こと》と思《おも》はれる。
更《さら》に印度《いんど》に行《ゆ》くと、印度《いんど》は殆《ほとん》ど化物《ばけもの》の本場《ほんば》である。印度《いんど》の地形《ちけい》も支那《しな》と同《おな》じく極《きは》めて廣漠《かうばく》たるもので、其《その》千|里《り》の藪《やぶ》があるといふ如《ごと》き、必《かなら》ずしも無稽《むけい》の言《げん》ではない。天地開闢以來《てんちかいびやくいらい》未《いま》だ斧鉞《ふいつ》の入《い》らざる大森林《だいしんりん》、到《いた》る處《ところ》に蓊鬱《おううつ》として居《ゐ》る。印度河《いんどかは》、恒河《こうか》の濁流《だくりう》は澎洋《ほうやう》として果《はて》も知《し》らず、此《この》偉大《ゐだい》なる大自然《たいしぜん》の内《うち》には、何《なに》か非常《ひぜう》に恐《おそ》るべきものが潛《ひそ》んで居《ゐ》ると考《かんが》へさせる。實際《じつさい》又《また》熱帶國《ねつたいこく》には不思議《ふしぎ》な動物《どうぶつ》も居《を》れば、不思議《ふしぎ》な植物《しよくぶつ》もある。之《これ》を少《すこ》し形《かたち》を變《か》へると直《す》ぐ化物《ばけもの》になる。印度《いんど》は實《じつ》に化物《ばけもの》の本場《ほんば》であつて、神聖《しんせい》なる史詩《しし》ラーマーヤナ等《とう》には化物《ばけもの》が澤山《たくさん》出《で》て來《く》る。印度教《いんどけう》に出《で》て來《く》るものは、何《いづ》れも不思議《ふしぎ》千|萬《ばん》なものばかり、三|面《めん》六|臂《ぴ》とか顏《かほ》や手足《てあし》の無數《むすう》なものとか、半人《はんにん》半獸《はんじう》、半人《はんにん》半鳥《はんてう》などの類《るゐ》が澤山《たくさん》ある。佛教《ぶつけう》の五|大《だい》明王等《めうわうとう》も印度教《いんどけう》から來《き》て居《ゐ》る。
印度《いんど》から西《にし》へ行《ゆ》くと、ペルシヤが非常《ひぜう》に盛《さかん》
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