りせいてき》な乾燥無味《かんさうむみ》なものであつて、情的《ぜうてき》な餘韻《よいん》を含《ふく》んで居《ゐ》ない。隨《したが》つて少《すこ》しも面白味《おもしろみ》が無《な》い。故《ゆゑ》に文運《ぶんうん》が發達《はつたつ》して來《く》ると、自然《しぜん》化物《ばけもの》は無《な》くなつて來《く》る。文化《ぶんくわ》が發達《はつたつ》して來《く》れば、自然《しぜん》何處《どこ》か漠然《ばくぜん》として稚氣《ちき》を帶《お》びて居《ゐ》るやうな面白《おもしろ》い化物思想《ばけものしさう》などを容《い》れる餘地《よち》が無《な》くなつて來《く》るのである。
三 化物の分類
以上《いじやう》で大體《だいたい》化物《ばけもの》の概論《がいろん》を述《の》べたのであるが、之《これ》を分類《ぶんるゐ》して見《み》るとどうなるか。之《これ》は甚《はなは》だ六ヶしい問題《もんだい》であつて、見方《みかた》により各《おの/\》異《ことな》る譯《わけ》である。先《ま》づ差當《さしあた》り種類《しゆるゐ》の上《うへ》からの分類《ぶんるゐ》を述《の》べると、
(一)神佛《しんぶつ》(正體《しやうたい》、權化《ごんげ》)
(二)幽靈《ゆうれい》(生靈《いきれう》、死靈《しれう》)
(三)化物《ばけもの》(惡戲《あくぎ》の爲《ため》、復仇《ふくしう》の爲《ため》) (四)精靈《せいれう》 (五)怪動物《くわいどうぶつ》
の五となる。
(一)の神佛《しんぶつ》はまともの物《もの》もあるが、異形《いげう》のものも多《おほ》い。そして神佛《しんぶつ》は往々《わう/\》種々《しゆ/″\》に變相《へんさう》するから之《これ》を分《わか》つて正體《しやうたい》、權化《ごんげ》の二とすることが出來《でき》る。化物的神佛《ばけものてきしんぶつ》の實例《じつれい》は、印度《いんど》、支那《しな》、埃及方面《えじぷとはうめん》に極《きは》めて多《おほ》い。釋迦《しやか》が[#「釋迦《しやか》が」は底本では「釋迦《しやか》か」]既《すで》にお化《ば》けである。卅二|相《さう》を其儘《そのまゝ》現《あら》はしたら恐《おそ》ろしい化物《ばけもの》が出來《でき》るに違《ちが》ひない。印度教《いんどけう》のシヴアも隨分《ずゐぶん》恐《おそろ》[#ルビの「おそろ」は底本では「おそ」]しい神《かみ》である。之《これ》が權化《ごんげ》して千|種《しゆ》萬樣《ばんやう》の變化《へんくわ》を試《こゝろ》みる。ガネーシヤ即《すなは》ち聖天樣《せうてんさま》は人身《じんしん》象頭《ざうづ》で、惡神《あくしん》の魔羅《まら》は隨分《ずゐぶん》思《おも》ひ切《き》つた不可思議《ふかしぎ》な相貌《さうぼう》の者《もの》ばかりである。埃及《えじぷと》のスフインクスは獅身《ししん》人頭《じんとう》である。埃及《えじぷと》には頭《あたま》が鳥《とり》だの獸《けもの》だの色々《いろ/\》の化物《ばけもの》があるが皆《みな》此内《このうち》である。此《この》(一)に屬《ぞく》するものは概《がい》して神祕的《しんぴてき》で尊《たうと》い。
化物《ばけもの》の分類《ぶんるゐ》の中《うち》、第《だい》二の幽靈《ゆうれい》は、主《しゆ》として人間《にんげん》の靈魂《れいこん》であつて之《これ》を生靈《いきれう》死靈《しれう》の二つに分《わ》ける。生《い》[#ルビの「い」は底本では「き」]きながら魂《たましひ》が形《かたち》を現《あら》はすのが生靈《いきれう》で、源氏物語《げんじものがたり》葵《あをひ》の卷《まき》の六|條《でう》御息所《みやすみどころ》の生靈《いきれう》の如《ごと》きは即《すなは》ち夫《それ》である。日高川《ひだかがは》の清姫《きよひめ》などは、生《い》きながら蛇《じや》になつたといふから、之《これ》も此《この》部類《ぶるゐ》に入《い》れても宜《よ》い。死靈《しれう》は、死後《しご》に魂《たましひ》が異形《いげう》の姿《すがた》を現《あら》はすもので、例《れい》が非常《ひぜう》に多《おほ》い。其《その》現《あら》はれ方《かた》は皆《みな》目的《もくてき》に依《よ》つて異《こと》なる。其《その》目的《もくてき》は凡《およ》そ三つに分《わか》つことが出來《でき》る。一は怨《うらみ》を報《はう》ずる爲《ため》で一|番《ばん》怖《こわ》い。二は恩愛《おんあい》の爲《ため》で寧《むし》ろいぢらしい。三は述懷的《じゆつくわいてき》である。一の例《れい》は數《かぞ》ふるに遑《いとま》がない。二では謠《うたい》の「善知鳥《うとう》」など、三では「阿漕《あこぎ》」、「鵜飼《うがひ》」など其《その》適例《てきれい》である。幽靈《ゆうれい》は概《がい》して全體《ぜんたい》の性質《せいしつ》が陰氣《いんき》で
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