ものは、やはりものゝ役にはたゝぬともうされては、恥かしいことでございますもの。それにこれからこの農場の主婦の役をいたしますのには、どのやうな畑のすみずみ、作物のこと、馬のこと、なんでも知つておかねばならず、第一鍬の持ちかたからして知らない私は、よほど本気にならねば一人前の百姓にはなれぬと、せいぜい今のうちから心がけてをります。それにおまきさまのお産もまぢかになり、赤さんが出来ましたらなにもかも、この家のこと、今度は私が代つてさしづいたすやうもうされてをりますので、そのことものみこまなければなりません。こゝは小田原での暮しのやうに、ちまぢまと小ぎれいにといふわけにはまいりません。三升だきの鉄のお釜は、なれぬうちはなかなか持ちあがりませんでした。小田原の家の一升五合だきの銅のお釜をいつもきれいに磨きたてゝおいたこと思ひ出します。それから、十四の春でしたかあの銅の釜を三和土の上におとして、へこましてしまひ、泣きながら火吹竹でたゝいてなほしてゐるところお兄さまにみつかつて笑はれたことなど思ひ出します。こゝのお釜なら、落したくらゐではびくともいたすものではございません。あのころはまだ私、矢倉沢か
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