て歸つて行つた。
 東京の伯母と母と恭介伯父と私とがそれを送つてから、たそがれの町を家に歸つた。
「伯父さんもこの次は自分の番だと思つてゐるのね――。今度はずゐぶん親切によくなすつた」と母が誰に言ふともなしに言つた。
 私は今別れた大きなしかしどこか老人の弱弱しさをかくしきれない伯父の姿を思ひ浮べて暗い氣持になつた。そしてそつと私の前に歩いて行く東京の伯母の、白い髮とこころもち前に曲つた腰のあたりに目をやつた。
 それから、母の聲のまだ若若しい餘韻を耳にして、はかないなぐさめのこころを味はひながら、だまつてうす暗い町を曲つた。



底本:「現代文學代表作全集 第三卷」萬里閣
   1948(昭和23)年11月30日発行
初出:「春の落葉」東京詩學協會
   1928(昭和3)年4月
※「妙なものだ――。」の「。」は、判読困難に付き、推定です。
入力:鈴木厚司
校正:土屋隆
2009年3月25日作成
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