するが故に安全なり。
三、家屋借料、給料、燃料、燈火に関する経費を要せざるが故に、経済なり。
四、各町村を通して、絶えず、巡回せしむるが故に、公衆の読書趣味を喚起す。
五、巡回文庫駐在所は、知識の新中心なり。
(以下略)
[#ここで字下げ終わり]
右の如く列挙したる後、同報告者は更に概括していわく、
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要するに巡回文庫は、僻遠の町村住民をして些少し経費にて有益健全なる多数の図書に接することを得しめ、単に、この種の図書に対する興味を喚起するのみならず、その興味の馴致せらるるまで、読書の範囲を制限するの便利あり。……
巡回文庫は日曜、夏期、冬期等の休業なく、昼夜間断なき無月謝の学校にして、老幼男女に鼓吹と教訓と娯楽とを与えしかもその課程は、庖厨にある妻君にも、田圃にある農夫にも、工場にある職工にも、学校にある教師にも、病室にある患者にも、運動場にある児童にも、市町村の[#「市町村の」は底本では「市村町の」]教職にある公民にも、洽く通せさる所なし。……
一般人民のために、至大の便益を与うるものは、要するに、少数の大図書館にあらずして、小規模なる数多の巡回文庫なり。……
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七、「ニユー、ジエルシー」巡回文庫は、きわめて近年の創立に係り、却て参考に供すべきがごとし。千八百九十九年創立当時の計画にては、まず五十冊よりなれる文庫二十函を購入することとし、州立図書館長これが管理の任に当り、町村の申出によりこれが貸出に応ずることとし、これが貸付を得たる地方委員と地方図書館員とをして、文庫に対する一切の責に任せしめ、借受後、六ヶ月を経れば、これを返納して他の引換を求むる仕組なり。しかして州においては、文庫使用の利益を受くる町村より、毎年五ドルを徴収して、文庫維持の経費に充て、しかして文庫を借受けたる町村においては、その図書を個人に貸付するには、その返納期日を誤りたる者に対し、一般の規程に依り、過料を徴収するの他、全て無料なるべく、しかして、此巡回文庫は、古今の小説、伝記、歴史、紀行、と理学及び文学とよりなれりという。
八、要するに、巡回文庫はニユーヨークを中心として創設せられ、漸次「マッサチューセッツ」、「ウイスコンシン」、「ミシガン」、「ペンシルヴェニヤ」、「メリーランド」、「オハヨー」、諸州に普及して、既に争うべからざる成績を得た
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