接近し相互に隔意なく協力利用することを忘るべからず。
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「自今以後、この二種の機関は互に相侵し相煩わすことなく、両々相頼り互に相援けて並び進まざるべからず。学校は自発的に思想と作業との系統を定め、児童の活動力と活動傾向とを開発し、全てその当面の作業における有力の同盟として遺憾なく図書館を利用し、児童をして終生これを利用せしむる習癖を養成せざるべからず。図書館は出来得る限りの補足的努力により、最も聡明なる協力により、最も同情あり効果ある助力により、又児童を歓迎して老来体力の衰頽により図書館の利用不可能なるに至るまで、これを離るるに忍びざらしめこれによりて学校に応答せざるべからず。」『師範学校教程図書館管理要項より』
[#ここで字下げ終わり]
    四
 図書館を中心とする自学自修主義の学風作興と相待て必要なるは互助教育の復興なり[#「互助教育の復興なり」に白丸傍点]。従来行われたる漢学塾の論講は他にいかなる短所ありとも一面より見れば互に切瑳し相啓発するの効ありしは疑うべからず。この種の学風我国に跡を断たんとする今日却て米国において盛に行わるるを見る。同国公共図書館においては多く倶楽部室の設備ありて成年者のために各種会合の便を与うるのみならず、中小学の少青年にして弁論又は研究の小集会に利用する者少なからず。ニューヨーク、ウイスコンシン諸州に在りては数名ないし十数名の同志相集まりて読書倶楽部を組織し大学通信教育部または州立図書館の監督指導の下に読書の順序を定め、参考用として巡回文庫を借受け一定の事項を研究する者頗る多し。この組織は直ちにこれを今日の我が青年会に適用し難しといえども青年会も修養機関としては今後主として互助教育主義を採り同趣味、同年輩の者、日時を定めて三々五々相集合し年長者を座長または奨励者となし教師は大体の説明指導を与うるに止め互に切瑳啓発せしめば従来の補習夜学に比し一段の進境ならずとせず。
 図書館こそ真に民衆の大学なれ、とカアライルは云えり。大学教育が講義によりて問題の輪廓梗概を示し、学生をして図書館に入りて各自の能力に応じこれを潤飾しこれを研究せしむるごとく、今日以後、国民各自をしてその長所特色を発揮せしめんとならば、小学教育より早くすでに図書館中心主義の教育法を採り、予習復習ともなるべく図書館を利用せしめ、社会的には学校と云わず図書館といわず、全体として教育の能率増進を期し、個人的には児童の人格完成を期すべし。教育の基礎が全て小学校に存するごとく、補習教育問題も学年伸縮問題も学制改革問題も全て小学校における自動教育主義より出発すべく基点をここに求めざる解決は終極の解決というべからず。
[#地から1字上げ](『帝国教育』四一〇号、大正五年九月[#「九月」は底本では「九日」])



底本:「個人別図書館論選集 佐野友三郎」日本図書館協会
   1981(昭和56)年9月7日第1刷発行
初出:「帝国教育 第四一〇号」
   1916(大正5)年9月
入力:鈴木厚司
校正:小林繁雄
2007年12月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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