れが施設を試みたるもいあるを聞かず。今日の小学教育終了者にして全国鉄道重要駅を枚挙し得る者、その所在町村を基点として県内旅行の順序日程を定め得る者果して幾何ぞ。国史上の大人物はこれを暗記せるも郷土の史蹟、人物、もしくは直観資料の知識を欠く者あるいは多々これあらん。これが欠陥救済として各府県において郷土の史蹟、人物、文芸等を主とせる補充読本を編纂しこれに郷土に関する直覧資料を加えて第六学年以上の児童に携帯使用せしめば、一面郷土観念を鞏固にし、一面国定教科書による画一の弊を救済し兼ねて学力補習の用に供すべし。補習教育の必要は今日一般に認められたれども、これが教科書に充用すべき読本の乏しきに苦しむもまた事実なり。故に郷土読本の編纂に際しては事情の許す限り一般国民資料をも加味しその毎篇、毎章または編章中の主なる事項毎に成るべく適切なる参考書を示し、その本文はそのまま、補習教科に充つべく指定せられたる参考書は教師の参考資料ともなり進みたる青年の独学自修の栞にも供すべきようにし、通俗講話のごときもなるべく題材をここに求むることとし、町村図書館においては最先にその指定参考書を備付くることとし、巡回文庫にも幾分これを編入ししかして機会あるごとにこれが利用を奨励せば必ずや効果の見るべきものあるべし。
三、師範学校に図書館学科を加うること 辞書、参考書、郷土読本の編纂なるも書籍は必竟死物にして指導者その人を待て始めて活用全きを期すべきが故に児童の自学自修の常習を馴致せんとせば教師自らまずその自助の精神を体得し、その態度を一変せんことを要す。教師をしてまず読書趣味、図書館趣味の必要を自覚せしむるには師範学校最終学年の生徒に図書館利用法を課し、就職後、入ては教室に児童の読書を指導し、出でては学校附属の図書館管理に任ぜしめ学校図書館互に相提携して国民教化の活動を全からしむるにしくはなし。しかして学校図書館の主なる利益は教師は館員よりも児童の個性を悉知するが故に教室内に善き集書ある場合には適切の時期に適切の書籍を適切の児童に供給することを得るにあれども、その不利益とする点は児童が中央図書館に出入する慣習養成の機会を逸し、したがって中央図書館における大集書の教育的価値を閑却するに在れば、学校と図書館とは各自らその特殊の任務を自覚し学校は児童を介して図書館に接近し図書館は附属図書館を介して学校に
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