されてな……アッハッハッハッ……」
酔漢はぺらぺらとわが校長に話している。明石近くになると、みんなの足が妙な、くすぐったい笑いを初める。その笑いは、電車の中の人となってようやくだまってしまった。
明石から仙台まで電車にのる。電車中のロマンスといいたいが、それは長くなるから止すが、その主人は、青いヘルメット帽をいただいた一名色男という××くんで、相手は決して妙齢とは思ってくれるな。また婆さんとも思ってくれるな。しかして読者の想像に任せることとしよう。電車を下りるや、
「いよう、色男っ! 罰金は承知だろうな」
と早速一本参る。
宿屋についた。仙台市××町瀬戸かけ[#「かけ」に傍点]旅館とは、みんなが宿屋の看板を見るまで信じていた名、かけ[#「かけ」に傍点]とかつ[#「かつ」に傍点]の誤りか……うふふ。
明日は多賀城に向かうのだ。疲れたからだに夢も忘れて眠る。
[#地から2字上げ](第二信・仙台にて)
六
三日、午前六時五十五分一の関発、平泉へ出発。まず平泉駅にて下車すればおよそ一町北に平泉館というあり。
「……秀衡が跡は田野に成って金鶏山のみ形を残す……」
と奥の細道は言っているが、今はその一部は人家の下に夢をたたえ、一部には麦の穂の白い花が盛りでした。この一眸の田畑の中を北上川が流れている。即ち藤氏三代の栄耀の跡である。束稲山は北上川をへだてて青空の下に静かに往時の夢をむさぼっている。
まず高館に登る。すなわちわが義経公の居城のありし跡なり。私はまず木像を拝し足下に流るる北上の激流を、絶壁の下にのぞき相対している束稲山をはるかにのぞんだ。
老杉の間から夏緑の影が鮮かである。ここからは衣川の流れも北方の山々も何の遮るものもなく一眸に見える。
義経の自刃の場所である。
私は義経くらい心の美しい武士はないと思っている。そして義経を想うといつも彼を終わりまで助けてくれた佐藤庄司父子の武士らしい一生を夢よりも美しい物語として私は思い出すのである。その佐藤庄司の宅はあの向こうの山の中腹頃にあったのである。陸奥の山河は清い武士の心を育んでくれた。その清い武人を頼ってはるばる奥州へきた世にも美しい小鳥のような魂をもつ義経を彼らは育てあげていたのである。
小鳥は巣立った。美しい小鳥は美しくとびまわった末、再び羽をいためて古巣を訪れたのだ。それをあくまで
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