石をしょわずに
――わかい女教師の自殺
村山俊太郎
1
昭和二十二年七月二十日の朝、T村小学校のわかい女教師が、通勤の途中にある淵に投身自殺をした。すがすがしい朝を、大きな石を身につけて、すきとおる山谷の淵の底に身を沈めた。十八年四月、村の高等科を卒えると、T町の実科高女校に入り、卒業した二十一年四月から隣村の小学校に助教として奉職していた。このわかい女教師は、わたくしの妻の教え子なので、時々わたくしの住まいにも訪ねてきて、よく教育のことなどを語りあった。それで妻からこのK子の死を知らされたとき、どうしても信じられないほど心のおどろきを感じたのだった。妻はその自殺の模様をかいつまんで話してから、
――子どもたちのけんかがもとで、有力な父母から、新教育なんていったって、しつけひとつできないじゃないかと言われたのがもとだって。
と死の原因についての評判をまとめて語ったあとで、
――けれど、そのほかに、新しい教育への苦しみと悩みがK子を死なせたのよ。
とわたくしの同意をもとめるようにいった。このことについては、つい一週間ばかり前にK子がわたくしの住まいを訪ねてきて、教育についての悩
次へ
全9ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
村山 俊太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング