の面相にしてからが、典型的な|悖徳狂の型《モーラル・インサニティ・タイプ》[#「悖徳狂の型」は底本では「悸徳狂の型」]で、ああいう乖離《かいり》性素質のものこそ、こういう傾向的犯罪を犯しやすいんです。ああいう種類のやつの非人情、残忍性ときたら、とても常識で律するわけにはゆかんのですからねえ」
 なるほど、先生のような見方もあるだろう。カラスキーが先生に贈ったひそかな友情については、それを先生に告げる意志は毛頭なかったが、それはそれとして、少しばかり先生を困らしてでもやらなければ、虫がおさまらぬような気持になってきた。
「ねえ、先生、カラスキーがあなたをどこへ誘ったって言いましたっけね」
「サン・トノーレ街です」
「あなたは、サン・トノーレ街に大統領官邸《パレエ・ド・レリゼ》があることをご承知でしょうね」
「えッ」
「つまり、カラスキーは、あなたを大統領暗殺のお先棒に使うつもりだったのですね、こいつァどうも際どかったですナ。ノソノソ後を喰っついてでも行ったら、否応なしに断頭台《ギヨチーヌ》の上から巴里にさよならを言わなければならないところでした」
 石亭先生は、咽喉の奥で、うるる、と妙な
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