を送った。(さよなら……、さよなら……)
突然、やや遠くで、轟くような大砲の音がし、それを追いかけるように、あちらこちらの寺院の鐘が、一斉に鳴りはじめ、無数の人の歓声が怒濤のように湧き起った。殷々たる砲声と、寺院の鐘と、人のどよめきが、入り乱れ、混り合い、空をどよもして響きわった。
十二
復興式《ルネッサンス》の荘重な前面《ファサート》を持った王宮の前庭には、それを、三方から囲うようにして、数万の人民が堵列していた。手に手に緑と藍と白のリストリアの小さな国旗を持ち、謁見式への自動車が通るたびに、一斉に喊声を浴びせかけた。
「万歳!」
「リストリア王国万歳!」
「エレアーナ王女万歳!」
高低さまざまに、微妙な階調をつくりながら、渾然たる歓喜の総量となって空に立ちのぼる。
竜太郎の乗った自動車は、熱狂した歓呼と歓声の間を、ゆるゆると王宮のほうへ進んで行った。
ちょうど、芝居の急転換のような、目まぐるしい一週間だった。
あの、息づまるような刹那に、竜太郎が聞いた、大砲と鐘とどよめきの声は、反乱軍の突然の背反《レヴォルト》と、スタンコウィッチとステファン両家の和議成立を
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