エキュイエール》が二列になって徒歩でつづく。王室の紋章を金糸で刺繍した美々しい陣羽織《レ・タバール》組。……槍の穂先をきらめかす儀仗の小隊。それから、いよいよ戴冠式のお馬車がやってくる。六頭の白馬に輓かせた金の馬車の中に、あの夜の少女がもの佗びた面もちで乗っている。
……一人の若い東洋人が、群集と警衛の憲兵の人垣の間から飛び出し、ゆっくりと馬車に向って歩いてゆく。……たぶん、五六歩。おそらく、それより多くはあるまい。……一発の銃声がひびきわたり、儀仗兵の拳銃の弾丸が、その胸の真ん中を射ぬく。……若い東洋人は、なんともつかぬ微笑をうかべながら、一瞬馬車の中の王女の顔を見つめ、ゆるゆると舗石の上に崩れ落ちると、それっきり動かなくなってしまう……五色の切紙が背の上におびただしく降り積み、テープの切れっぱしが、ヒラヒラといくつも首のあたりにまつわりつく。ちょうど祝宴の席で酔いつぶれてしまった、幸福な花婿のようにも見えるのである。……
巴里を発つ時は、街路樹の蔭からなりと、ひと眼見てこようと思っていた。ところで、汽車が動き出すと、とつぜん、思いがけない心の作用が、その決心を変えてしまった。
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