、
「早速ですが、美濃屋清吉というのは、どういう素性の男なんで」
甚兵衛という年嵩《としかさ》の方が、頷いて、
「はい、あなたもご存じでいらっしゃいましょう、先代の美濃清はそれこそ、譬《たと》え話になるような頑固な名人気質。曲ったことの嫌いな竹を割ったような気性の男でしたが、これが三年前に死にまして、今は忰の清吉の代になって居ります。……依怙贔屓《えこひいき》になりますから、ありようをざっくばらんに申上げますが、どちらかといえば、鷹に鳶《とんび》。仕事は嫌いではなさそうですが、ちょっとばかり声が立つもんだから清元《きよもと》なんかに現《うつつ》を抜かして朝から晩まで里春のところに入り浸《びた》り。半分は評判でしょうが、毎朝小ッ早く出かけて行って、里春の寝てるうちに火を起すやら水を汲むやら、大変な孝行ぶりだということです」
「この、担呉服の瀬田屋藤助というのは」
「ずっと京橋の金助町《きんすけちょう》におりまして、麹町にまいりましたのはついこの春。酒も飲まず、実体《じってい》な男というきり、くわしいことは存じませんです」
「植亀の方は、どういうんです」
「これは里春の弟子というよりも、
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