を取出し、
「……象の右の前脚に入ったのは、美濃清で、左脚が植木屋の植亀《うえかめ》。……後脚の右が麹町十三丁目の両換屋、佐渡屋の忰《せがれ》の定太郎《さだたろう》。……同じく後脚の左が、箪笥町《たんすまち》の担呉服《かつぎごふく》、瀬田屋藤助《せたやとうすけ》この四人。……なア、目ッ吉、仮に、象を背負《しょ》って歩きながら里春を殺るとしたら、どいつがいちばん歩《ぶ》がいいと思う」
「……象の脚の下から担いで行く四人の脚が見えているんだから、槍か何かで突くとしても、まず、前脚の二人は覚束《おぼつか》ない。こういう芸当が出来るとすれば、後脚の右へはいった佐渡屋の定太郎と、左へはいった瀬田屋藤助」
「尻馬に乗るわけじゃないが、俺の見込みも、大体、その辺だ」
番所までは、そこからほんのひと跨《また》ぎ。
入口の土間の床几に、町内の世話役らしい年配が二人。麻上下の膝へ花笠をひきつけて気遣《きづか》わしそうな顔つきで控えている。
伝兵衛が入って来たのを見ると、もろともに起ちあがって、
「土州屋さん、年に一度の祭に、こんなくだらねえ騒ぎを仕出かして、面目次第もありません」
「何といったって、
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