の岸をずっと見てまわりましたが、ボートらしいものは着いていませんでした」
加藤捜査一課は納得しない顔で問いつめた。
「妙な話だな……どういうことなんだい」
「星明りで、はっきりとアヤは見えなかったが、どこかやられたらしくて、フラフラになっていました……ガレージの横手からまわりこんで、勝手口からロッジへ入りました」
「女はどうした?」
「お見込みどおりでした。時間の打合せがあったのだとみえまして、女のほうが先に二階から降りて、ホールで待っていました」
「おかしいね、それを、どこから見たんだ」
「玄関の脇窓から」
加藤捜査一課は背筋を立てると、頭ごなしにやりつけた。
「絶対にロッジの近くへ寄りつくなといったろう?……まずいことをするじゃないか。感づかれると、やりにくくなって困るんだ」
「いや、どうも……立っていたところに、偶然に窓があったもんですから」
「感づかれたらしいようすはなかったか」
「大丈夫だろうと思います」
「君が大丈夫というなち、大丈夫だろう……つづけたまえ」
「……女は大池を長椅子に寝かせると、洗面器に水を汲んできて大池の胸を冷やしていました。薬だの酒瓶だの、いろいろと
前へ
次へ
全106ページ中90ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング