ーの瓶のとなりに並んでいた。
「安心なさい。ジギタミンも赤酒もあったわ」
 コップの水を口もとに持っていくと、大池は飛びつくようにして錠剤を飲みこんだ。
 三十分ほどすると、大池は眼に見えて落着いてきた。荒い息づかいがおさまり、脈のうちかたもいくらか正常になったが、寒いのかとみえて、鳥肌をたててふるえている。
 燃えさしの松薪を集めて煖炉を燃しつけにかかると、大池は恐怖の色をうかべて呻いた。
「煙突から炎をだすと石倉がやってくる」
 大池が石倉を恐れているのは意外だった。
「石倉が来れば、困ることでもあるの」
 大池は返事をしなかった。
「大池さん、まあ、聞いてちょうだいよ……雨の中で拾われたのはありがたかったけど、ロッジに泊めてもらったばっかりに、さんざんな目に逢ったのよ」
 そんなことをいっているうちに、われともなく昂奮して、この二日の間の出来事を洗いざらいしゃべった。どうでもいいつもりでいたが、深いところでは、やはり腹をたてていたのだとみえ、しゃべりだすと、とめどもなくなった。
「あなたは生きているんだから、自殺干与や殺人の容疑はなくなったわけだけど、今夜、二人だけでいたことがわ
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