だ。
 ほかにも、疑えば疑えることがある。キャンプ村のバンガローで泊るといったら、大池はいい加減なことをいって、キャンプ村に行かせなかった。久美子をロッジにひきとめようということなので、そうだとすれば、最初から殺意があったのだとしか思われない。
「あたしを殺せば、それでどうだというんだろう」
 破産詐欺の容疑で、久しく逃げまわっていた大池忠平という人物は、ひどい淋しがり屋で、一人で自殺するのに耐えられず、行きずりに逢った女性を道連れにするつもりだったのか? それならそれで納得がいくのだが、二人でいた間の大池の言動を思いかえすと、モヤモヤしたわからないことがたくさんあって、どう考えても、そんな他愛のないことではなさそうだった。

 いつの間にか眠ってしまったらしい。目をさますと一時近くになっていた。
 広間へおりて行ってみると、本庁から来た連中は伊東署へひき揚げ、大池の細君と隆は川奈ホテルへ昼食に行き、丸山という年配の部長刑事が、昼食《ひる》をつかいながら事故係の報告を受けていた。
「水藻は思ったほどではありません……湖岸と湖棚を終りましたから、午後から標識を入れて最深部をやります」

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