があるのだと解釈されるのです……あなたにしたって、なさりたいことがあるのでしょうから、自由をなくするのはお困りだろうと思って」
なにもかも、ひどい間違いだ。弁解する気にもなれないほどバカらしいと思うのだが、筋のとおらない論理に屈服することは、自尊心にかけても、我慢がならなかった。
「あたしの身柄はあたしで始末します。あたしの質問したことに答えてくださればいいのよ」
「どういうことですか」
「そこまでの親切があるなら、そっと隠しておいてくれればすむことでしょう。あたしに返すのは、どういうわけなの?」
「あなたは溺れかける父を見捨てて、泳ぎ帰ってきたひとでしょう?」
「それは反語ですか……たとえ、そうだとしても、あたしが自殺しないといえるかしら? いろいろと言いまわしているけど、あたしには反対の意味に聞えるのよ……睡眠剤を致死量だけ飲んで、はやくおやじの後を追ったらよかろう……」
「宇野さん、それは邪推ですよ。あなたの側に個人的な理由があるならともかく、父のためなら、たぶん、あなたはもう自殺なんかなさらないでしょう。いちど死神が離れると、とっつかまえるのはたいへんだといいますから……そう
前へ
次へ
全106ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング