は、人骨の粉末を微量にまぜるというマニエールがあって、それは誰でも知っているんですが、セエブルでもリンブルゴでも、混合の比率は秘密にして絶対に知られないようにしているんです」
「そういうものかね。はじめてきいた。でもそれは人間の骨でなくてはいけないのか」
「そうです」
 というと、膝杖をついてうつらうつらとなにか思案しはじめた。
 この白さをだすのに誰の骨を使ったかなどとかんがえるまでもない。伊良の細君は肌の白い美しいひとで、その肌なら、ある意味で伊良よりもよく知っているわけだが、そのひとの骨がこの磁器のかけらにまじりこんでいると思うと、その白さがそのまま伊良の細君の肌の色に見え、いい知れぬ愛憐の情を感じた。
「ともかくそれは大事業だね。切にご成功を祈るよ」
「ところが、このごろ人骨が手に入らないので、仕事がすすまなくて弱っています。フランスでは磁器に使う分は政府が廃骨を下げわたしてくれるので楽ですが、日本にはまだそんな規則もないし、いざ欲しいとなると、これでなかなか手に入りにくいもんです」
 というと、ジロリとへんな上眼づかいをした。
 肉親も親戚もみな戦災し、死ねば伊良が葬うほかな
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