る所を機銃で射たれた。他にも大勢やられたのがあってなかなか火葬の順番がこない。伊良は癇癪をおこして細君を窯で焼き、骨は壺に入れてその後ずっと棚の上に載っていた。浅間《あさま》な焼窯にどんな風にして細君をおしこんだのかそのへんのところをたずねると、伊良は苦笑して、
「どうです。あなたも焼いてあげましょうか。おのぞみなら釉をかけてモフル窯できれいに仕上げてあげますがね」などと空《そら》をつかってはぐらかしてしまった。
きょうはどうしたのかむやみにはかがいく。たてつづけにグビ飲みをやっていたが、
「春《ファル》は野《ヌ》も山《ヤマ》も、百合《ユーリ》の花盛《ファナサカ》リーイ、行《イ》きすゅる袖《ソーデ》の匂《ニオ》のしおらしや……」
とめずらしく琉球の歌をうたいだした。
「いい歌だね。それに似たようなのが内地にもあるよ……野辺にいでて、そぼちにけりな唐衣《からごろも》、きつつわけゆく、花の雫に。それはそうと、きょうはひどくご機嫌だね」
伊良はニコニコ笑いだして、
「まだ申しあげませんでしたが、わたしの磁器もどうやら本物の白に近くなってきたようで、きょうはとても愉快なんです」と力んだよ
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