しまいし。……おれが云わなくたって時がくればわかる。……いわゆる、……天網恢々、さ」
 乾はなにかしばらく考えこんでいたが、やがて、勢いこんで、
「しかし、こんな風にも考えられるねえ。……あの晩、葵の部屋にもひとり女がいて、出て行ったのは葵でなくて、そいつ……」
 西貝がふきだした。
「おい、乾老……評判どおり君は葵に惚れてるんだな。……なるほど、君のブラック・リストから葵の名が消えてるわけだ。……するてえと、あとに残ったのはだれだれだね? (妙に探ぐるような眼つきをして)久我、……古田……」
 乾がぽつりと口をはさんだ。
「それから、あなた」
 西貝の膝がピクリと動いた。急に顔色を変えると怒鳴るようにいった。
「おれ? 冗談いうな」
 乾はおちつきはらって、
「いや、大いに理由があるんですよ。(西貝の眼を見つめながら)西貝さん、あの晩の午前二時頃あんたどこにいました?」
 ……返事がなかった。
「午前二時ごろ〈那覇〉の、……いやさ越中島であんたを見かけたってやつがあるんだがねえ。……いったい、あの辺にどんな用があったんです」

     6

 葵はホテルの窓ぎわに坐って、落着かない
前へ 次へ
全187ページ中95ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング