を見るとうれしそうな微笑をうかべながら、急いで近づいてきて、掛けるやいなや、オイ、菊正《きくまさ》! と、怒鳴った。
西貝は久我のほうへ顎をしゃくって、
「こちらは、久我君。……このひとも怪人から手紙をもらったひとりなんだ。ときになにかニュースがあるか」
那須は頭をかかえこんで、
「駄目、駄目。……(それから、顔をあげると、身体をゆすぶりながら)昼からいままで、僕は永代橋と荒川の放水路の間を駈け廻っていたんだ。それから、〈那覇〉の常連とあのへんの地廻りを、ひとりずつ虱っ潰しにして見たんだ。……ちょっと面白いことがあるんだね。富岡町の〈金城〉ってバアの女給に、朱砂《しゅすな》ハナ、ってのがいてね。これが、殺された南風太郎と同じく、琉球の絲満人なんだ。東京へそれを連れてきたのも南風太郎だし、一時は夫婦のように暮していたこともあるんだ。こいつは、琉球で小学校の先生までしたことがあるんだが、いまはもうさんざんでね。バアの二階で大っぴらに客をとるんだ。チョイト小綺麗でね、モダン・ガールみたいな風をしているんだ……こいつをききこんだときはうれしかったね。……ほら、前の晩に〈那覇〉へ酒をのみにき
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