老人がいるがね、僕の睨んだところでは、これがいちばん闇黒なんだ。(と、いうと、なんともつかぬ微笑をうかべながら)それから、……その葵という、僕の、……ま、これについてはいずれゆっくり話すが、僕はちょっと手をつけた。だがね、やはり探偵小説は僕の手に合わない。結局得るところはなにもなかった。それで、僕はこれからすぐ……十時二十分で発つが君は?」
「僕はあすの十一時十八分」
 山瀬のほうへ手をさし出しながら、久我がいった。
「それでは、僕はここでおりる。もう時間がないから、この辺からちょっとホテルへ電話をかけて仕度をさせておくつもりなんだ」
 ちょうど尼ヶ崎のちかくだった。
 山瀬は久我の手を握りかえしながら、
「じゃ、また東京で」
「どうか、お大事に」落着いた口調で、山瀬がこたえた。
「大丈夫だ。どんなことでもしてやる。解除の時を待てばいいだけのことだから……じゃ……」
 久我は片手をあげて山瀬のタキシに挨拶すると、停留場前の明るい喫茶店へはいっていった。いりちがいに、なかから若い娘がひとり出てきた。窪んだ眼、高い鼻、……典型的なこの南島人の顔は、たしかにどこかで見たことがある。
 ようや
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