示唆がこの謎を解析してくれた。
 この島の特質上、石膏末、コロジウム繃帯、縫合針、義眼など、剥製に必要な器具材料が、なにひとつ欠けることなく取揃えられてあり、そして狭山は熟練した剥皮夫である。目測したところでは、膃肭獣の身長は一・四米から一・五米の間であるから、小柄な女なら支障なくその中にひそみ、膃肭獣の皮をつけたままどのような人を馬鹿にした行動でもとり得るのである。
 娘は膃肭獣の中にいる。私はうまくしてやられた思いで、
「ちくしょう」と舌打ちをしたが、なんのために娘を膃肭獣の中へなど入れてあるのか、理由を発見するのに苦しんだ。膃肭獣をひっとらえて、事実のところをたしかめて見たく好奇心の荷重で耐えがたいほどになった。決行するには狭山の留守をねらうほかはないが、一日に一回しか機会がない。狭山が薪小屋に薪をとりにゆく時だけだ。
 私は扉の前に積んだ木箱や古机を、音のしないようにもとの壁ぎわに移し、鍵をあけ、いつでも飛びだせるように用意した。間もなく、いつものように薪箱に手鈎をひっかけてひきずり出す音がきこえ、裏口の扉がバタンと鳴って、狭山が戸外へ出て行った。私はひきちぎるように土間の扉を
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