末の稲妻のように私の脳底にきらめきいり、深い闇に包まれていたもののすがたを、一瞬にして蒼白く照らしだした。
そういえば、狭山は一日ごとに膃肭獣らしくなっていく。顱頂は次第に扁平になり、喉の贅肉は日増しに奇妙なふうに盛りあがってきて、いまはもう頤と胸のけじめをなくしかけている……わずかに、人間のかたちをとどめている手や足も、間もなく、五本の溝のついた、グロテスクな鰭に変形してしまうのだろう。とすれば、あの膃肭獣こそは、彼女のあさましい変容なのだと思うべきである。
幾万という膃肭獣が、毎年、夏になると、なぜこの島にばかり集ってくるのか、その謎をそのとき私ははっきりと解いた。この島の渚で悲し気に咆哮する海獣どもは、この島の呪いによって、生きながら膃肭獣に変えられた不幸な人間どもなのであった。そうして、一日も早く人間に転生しようと、撲殺されるためにはるばる南の海から、この不幸な故郷へやってくるというわけであった。
最初の朝、この島を一瞥するやいなや、救いがたい憂愁の情にとらえられたわけも、これで納得できる。なぜとも知らず、なにに由来する憂愁か、理解することができなかったが、今にして思えば
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