んなことなんだ」
 ひょろ松は、無闇によろこんで、
「こりゃアどうも、ありがたいことになった。駕籠に乗せられた上に、助けてまでくださろうというんじゃアあまり話がうますぎる。これでブツブツ言っちゃ罰があたります」
「やはり、御用の筋なのか」
「へえ、そうなんでございます。わっしは、さっきから相談を持ちかけたくてムズムズしていたんですが、御用の話をするとあなたは嫌な顔をなさるから、それで我慢していたンです。……では、これからお話しますが、もうすこし駕籠が揺れないようになんとかなりませんものでしょうか。舌を噛みきりそうで危くてしょうがない」
「よしよし、この調子ではどうだな」
「結構でございます。すみませんねえ。……実はね、こういうわけなんでございます。府中で手びろく物産廻送《ぶっさんかいそう》をやっている近江屋《おうみや》鉄五郎というのがあります。それにお源というのとお沢というのと齢ごろになる娘が二人いて、先年、姉娘のお源に婿をとることになり、やはり同業の青梅屋《おうめや》の三男坊で新七というのがきまった。どちらがわの親類にも異存がなく、七日ほど前に結納《ゆいのう》をとりかわしたのですが、
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