バタバタと土扉がしまって土蔵の中はまっ暗闇。そのとたん、不思議や、四人の水干の襟のあたりで同じような薄青い燐光がボッと光る。
「いや、よくわかりました。どうか土扉をおあけください」
 土蔵の中が明るくなると、アコ長は、
「ねえ、藤右衛門さん、今度の御神饌《ごしんせん》に生烏賊《なまいか》があがりましたろう」
「さようでございます。近江屋の廻送で、わざわざ越後から早駕籠で取りよせたということで」
「四人の襟を嗅いでみると、いかにも生ぐさい。これは暗闇の目じるしにするために四人の水干の襟に烏賊の腸汁《わたじる》を塗ったンです」
「へへえ、そういうわけでございましたか」
 アコ長は、五造にむかい、
「五造さん、あなたはこの四人の襟もとが光るのを、たしかにごらんになったのですね」
「さようでございます、確かに見ました」
 アコ長は、それを聞き流してひょろ松に、
「これで、もう話はわかったようなものだ。ひょろ松、構わねえからふン縛っちまえ」
 合点承知、とひょろ松が立ちあがって、ムンズリと坐っている桜場のほうへ詰めよって行くと、アコ長は、手でおさえ、
「おいおい、見当違いしちゃいけねえ。下手人
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