なんていうのはひどいじゃないか」
 五造は血相かえて膝行《にじり》だし、
「と、と、飛んでもない。なんでわたくしがそのような大外れたことを致しますものですか。仮に、わたしにそんな心がありましたとしても、自分が背負っている胡※[#「竹かんむり/(金+碌のつくり)」、第3水準1−89−79]の矢なぞは使いはいたしません。これが取りもなおさず、わたしの仕業でないという証拠。……察しますところ誰かわたしに人殺しの罪を塗りつけようため、暗闇にまぎれてわたくしの胡※[#「竹かんむり/(金+碌のつくり)」、第3水準1−89−79]から矢を盗みとったものと思われます」
 アコ長は、頭を掻き、
「やア、これは一言もない。そう言われれば、それに相違ない。これはちょっとわからなくなってきた」
 ひどく大真面目な顔で首をひねっていたが、急に声を低め、
「こういっちゃ失礼だが、あなたは田舎のひとに似合わず、珍らしくハキハキと物をいいなさるようす。こういう事件には、どうでもあなたのような方にあれこれと口添えをして貰わなければなりません。……ねえ、五造さん、今朝の件について、あなた、なにか心当りはありませんか。なん
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