ゃるンだから、あなたを差しおいて、われわれがどうこうするというわけには行かない。わたしには少々存じよりもありますが、これはやはりあなたにおまかせ申しましょう」
 藤右衛門は、手を振って、
「いやア、そのご斟酌《しんしゃく》には及びません。以前は江戸一の捕物の名人、仙波さんといえば、あっしらにとってはまるで神様のようなもの。その方がわざわざお出でくださったというのに繩張も管領もあるもんじゃありません。どうか、ご存分に」
「ご挨拶で痛み入ります。そういうことならばおぼしめしに従いますが、ご承知の通り、役儀の表で調べるというわけには行かない。いわば、ひょろ松の代理。そのへんのところもお含みおき願います」
「じゅうぶん、承知しております」
「では、あなたのお番屋を拝借することにいたしますが、早速ですが桜場清六と黒木屋五造をお引きあげくだすって、五造が背負っていた胡※[#「竹かんむり/(金+碌のつくり)」、第3水準1−89−79]と、桜場の弓矢もついでにお取りよせ願います」
「かしこまりました」
 頃あいをはからって、アコ長、とど助、ひょろ松の三人が番屋へ入って行くと、五造と桜場のふたりを中仕切
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