矢で深くぼんのくぼを射られ、水浅黄の水干の襟を血に染めて俯伏せになって倒れている。
顎十郎は、かがみこんで死体をひとつずつ念入りに検めていたが、そのうちにのっそりと立ちあがって、藤右衛門のほうへ振りかえり、
「……ご覧の通り、どの死体も、見事に必殺の急所を射抜かれています。夜眼、猫眼はとにかく、よほどの弓の上手でなければ、こういう水ぎわ立ったことは出来ぬはず。……それで、なんですか、藤右衛門さん、その猫眼の五造という男は弓でもやるのですか」
「へえ、いたします。弓と申しても楊弓《ようきゅう》ですが、五月、九月の結改《けっかい》の会には、わざわざ江戸へ出かけて行き、昨年などは、百五十本を的《い》て金貝《かながい》の目録を取ったということでございます」
「なるほど。……それで桜場清六のほうは?」
「このほうは、大和流の弓をよくいたし、甲府の勤番にいたころ、むやみに御禁鳥を射ころしたので、そのお咎めでお役御免になったというような話も聞いております」
アコ長は、突っ立ったままで、またしばらく考えていたが、バラリと腕を振りほどくと、
「藤右衛門さん、この土地では、あなたが繩を預かっていらっし
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