の阿古の長太郎というものですが、あなたがおさわりになったというのは、いったい、いつごろのことなンでございますか」
「いつもなにもありゃアしません、ほんのつい今しがたでございます」
「ひとが倒れているというのを、どうしておわかりになりました」
「あっしは後《あと》かため殿《しんが》りの役ですから身内のもの七人と列について、いちばん最後から行きますと、本殿を出て、五丁ばかりも行ったと思うころ、浄杖《きよめづえ》の先になにかさわるものがありますンで、なんだろうと思って捜りひろげて行くと、手ごたえの柔かい、なにかひどく大きなもの。御物嚢《おものぶくろ》でも落して行ったのかと思って、かがみこんで手でさわって見ますと、俯伏せに倒れている人間の身体。……これは、と驚いて、すっと捜って行きますと、盆の窪にのぶかく矢が立っています」
「これは、どうも意外」
「そういうふうにして順々に四人。……どれもみな、ぼんのくぼのところに、同じように矢が……」
「四人とも、ぼんのくぼに?」
「へえ、そうなんでございます」
 顎十郎は、急にひきしまったような声になって、
「その道すじに篝火とか松明《たいまつ》とか、そん
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