て、
「まずまずそのへんのところだ。お前がむこう見ずに鮨売の総渫いなんぞしたもんだから、どうにも後手がつづかなくなった。こんな大騒ぎをすりゃアどうしたってむこうが怯気《おじけ》づいて引っこんでしまう。引っこまれてはこちらが大きに迷惑。なんのつもりでこんなことを始めたのか、また、四人の娘がどこに押し匿《かくま》われているのか、今までの段取りではまるっきりあたりがつかねえ。いま御用部屋であんな馬鹿をして見せたのは、しょせん、むこうを安心させて誘いだし、是が非でも、せめてもう一遍やってもらうつもり」
ひょろ松は、仔細らしくうなずいて、
「辻占のはいった割り箸は、なにも鮨屋にかぎったことじゃない。割り箸に曰くがあるというンなら、鮨屋の箸を割って見ただけでおさまりのつく道理はない。江戸じゅうの割り箸をぜんぶ調べて見なけりゃアならねえわけ。あなたほどの人がこんなことに気がつかないわけはないのだから、こりゃア、テッキリなにかアヤがあるのだと睨んでいました。……それで、これからどうします」
「なんでもいいからこちらの間違いだったということにして、鮨売をみんな放してしまえ。そこまでやったら、むこうは油
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