ことはなにもありゃしなかったンだ。……くどいようだが、すると、その四人の娘たちは鮨を喰ってから駈け出したんだな」
「まあ、そういう順序でしょう」
「まあ、と言うのはどういうんだ」
「そのへんのところだろうと思うンで。……じつは、そこンところはまだ訊いていなかったんです。もっとも、こりゃア調べりゃアすぐわかります。……いま伺っていると、喰ったか喰わないかが妙にひっからんでいるようですが、娘たちがもし鮨を喰ったとすると、それがなにか曰《いわ》くになるンですか」
「まア、ひょろ松、割り箸の中からいったいなにが飛びだす」
「黒文字《くろもじ》が出ます」
「それから?」
「恋の辻占。……あッ、なるほど、それだッ」
 顎十郎は、ニヤリと笑って、
「ようやく気がついたか。鮨に曰くがあるンじゃない。その恋の辻占に文句があるンだ。……ひょろ松、その三人の鮨箱はちゃんと押えてあるンだろうな」
「へえ、そこにぬかりはございません。鮨のほうは腐ったから捨てましたが、割り箸はそっくり残っております」
 アコ長は、気ぜわしく立ちあがって、
「じゃア、これから行って調べて見よう。……鮨箱の中からどんな辻占が出るか、
前へ 次へ
全31ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング