んとかならんもんだろうかの」
顎十郎は、ニヤニヤ笑いながら、
「こりゃア、逃れる道はありませんね。まアまア観念して藤波に威張られていらっしゃい。……だから、あのとき、あたしがよせよせ、ととめたのにあなたが聞き入れないものだから、……それはまア、大したことはないが、そういうのっぴきならない情況で、おまけに藤波の掛りというのであれば、否でも応でも加代姫は突きおとされる。……気の毒なもんですねえ、とど助さん」
「さよう、いかにも気の毒。なんとかならんもんでしょうかなア。袖すりあうも他生の縁。あんた、ひと肌をぬいでつかわさりまッせ。加代姫だけならいいが、三十二万石に瑕がつくことですけん、なア、アコ長さん」
顎十郎は、組んでいた腕あぐらをバラリと振りほどいて、
「おっしゃる通り、いかにもこれは因縁ごと。よろしい、なにをかやっつけて見ましょう。相手が藤波というのであれば、これは久しぶりの咬みあい、まんざら気が乗らないわけもない。……『かごや』に加代姫が出むいて来たから、加代姫が殺ったのだと考えるのは、あまりチョロすぎる。加代姫が帰った後で、だれか別な人間がやって来てそいつが殺したのだとなぜ考え
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