、かりにもひとを殺せば無事にはすまない。いわんや藤堂和泉守は外様《とざま》大名。事あれかしの際だから、かならず三十二万石に瑕がつくくらいなことは知っていよう。どんな経緯《いきさつ》があったか知らないが、陸尺のいのちと三十二万石とをつりかえにする馬鹿はない。殺すにしたって、陸尺ひとりぐらいを片づけるにはどんな方法だってあります。気のきいた奴にバッサリ殺らしてしまえばそれですむこと。ひと眼のある中をわざわざじぶんが出かけてゆくなんてテはない。それじゃアまるでじぶんが殺りましたと見せびらかすようなもの。このへんから推《お》すと、あの六人を殺したのは加代姫ではないような気がする。あなたのお考えはどうです」
 とど助は、頬の髯をしごきながら、
「同感ですな。いかにうっそりなお姫さまでも、そぎゃん愚《ぐ》なことをするはずはありまッせん。いわんや、じぶんが入って来たところをわれわれ二人に見られたことも承知しとるのじゃけん」
「そうですよ。こりゃ、たしかに冤罪《えんざい》ですな。……ひょろ松、お前の意見はどうだ」
「……あっしは、こんなふうに考えておりました。加代姫は、六平になにか弱い尻をにぎられてい
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