顎十郎捕物帳
両国の大鯨
久生十蘭
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)海手《うみて》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二十六|夜待《やまち》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#歌記号、1−3−28]
−−
二十六|夜待《やまち》
七月二十六日は二十六夜待で、芝高輪、品川、築地の海手《うみて》、深川洲崎、湯島天神の境内などにはほとんど江戸じゅうの老若が日暮まえから押しだして月の出を待つ。
なかんずく、品川はたいへんな賑い。名のある茶屋、料理屋の座敷はこの夜のためにふた月も前から付けこまれる。
海にむいた座敷を打ちぬいてだれかれなしの入れごみ。衝立もおかず仕切もなく、煤払いの日の銭湯の流し場のようなぐあいになって、たがいに背中をすりあわせながら三味線をひいたり騒いだりしながら月を待っている。
この夜の月は、出る出ると見せかけてなかなか出ない。昼から騒いでいる連中は待ち切れなくなって月の出るほうへ尻をむけ、酔いつぶ
次へ
全30ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング