まりの二間きりのボロ長屋でとど助がまだ高鼾で寝くたばっているのを、アコ長が、ひどく勢いこんでゆり起す。
「とど助さん、とど助さん」
 とど助が寝ぼけ眼をこすりながら起きあがって、
「消魂《けたたま》しい、なにごとです」
「落ちついてちゃいけない。うまうまシテやられました」
「なにをどうやられたのですか」
 アコ長は、いまいましそうに畳の上に小判を二枚投げ出し、
「ごらんなさい、ゆうべの二両は贋金《にせがね》です」
「なるほど、こいつアひどい鉛被《なまりき》せ。狸でも、やはり女は細かいな」
「それにしても、贋金というのはわからない。どうせつかませるなら木の葉だっていいわけなんだが、……いったい、こんな贋金をどっから持って来やがったもんでしょう。ごらんなさい、鋳座《いざ》も本物だし被せてあるのはヒルモ金。こりゃア素人になんぞ出来ない芸、よっぽどみっちりと鋳たものです」
「なるほど、そういうものか。……いつか禿狸をつかまえたらかならず埋めあわせをさせてやる」
 ふたりで、ブツブツ言いながら朝飯をすませ、このごろはもう気ままな道楽商売。空駕籠をかついで護持院原《ごじいんがわら》までやってくると
前へ 次へ
全29ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング