どろしん》。このほうも、あっさり縮めて、とど助。
二三日あぶれつづけで、もう二進《にっち》も三進《さっち》もゆかなくなった。
きょうは正月の十日で、金比羅《こんぴら》まいりの当日、名代の京極《きょうごく》金比羅、虎の御門そとの京極能登守の上屋敷へ讃岐《さぬき》から勧請《かんじん》した金比羅さまがたいへんに繁昌する。
アコ長ととど助、屋敷の門前へ四ツ手をすえ、諸声《もろごえ》で、
「ヘエ、まいりましょう」
「これ、駕籠へのらんか、安くまいるゾ」
と、懸命にやったが、ひとりも客がつかぬ。
しかたがないから、白金《しろかね》へまわって、ここもやっぱり金比羅勧請の、高松の松平讃岐守《まつだいらさぬきのかみ》の上屋敷。植木の露店なども出て、たいへんな人出なんだが、ここもいけない。
アコ長、とうとう音をあげて、
「こいつア弱った。こう見えても、わたしは信心のいいほうなんですが、いっこうに御利益《ごりやく》がありません」
とど助も、弱った声で、
「いかにも珍である。こうまで精を出して、ただのひとりの客がないというのは、実に異なことだな」
「澄ましてちゃいけません、とど助さん。けさの八ツ
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