仕業だと思うんだが、みなさんのご意見はどうです。……さっきから、ちっともその話が出ないようだが」
そう言って、同意を求めるように、一座の顔を眺めわたした。
佐原屋が絞め殺されているのを見た時、とっさにみなの頭にひらめいたのはこの考えだったが、そのやり方になんともいえぬ凄いところがあって、闇討ちや刀槍《とうそう》の威迫《いはく》にはいっこう驚かぬ剛愎な連中も、さすがにどうも膚寒《はださむ》い気持で、その話にだけはなんとなく触れたくなく、諜《しめ》しあわしたように口を噤《つぐ》んでいた。
日進堂がそう言うと、和泉屋は、むしろホッとしたような顔で、
「まず、そうと思うよりほかはない。……われわれとしては、すでに覚悟のあることで、こんなことぐらいで弱気になるのではないが、あまり水ぎわ立ったやり方なんで、さすがに、ちっとばかり凄いようで……」
佐倉屋もうなずいて、腕を組んで凝然《ぎょうぜん》としている仁科のほうへ向きなおり、
「……ねえ、仁科さん……たとえ、どう理が合わなくとも、これが獺《かわうそ》や、怨霊《おんりょう》のしわざだなぞと、そんな馬鹿気たことはわたしらは考えない。……絞めた
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