きな円卓《えんたく》をかこんで、格式張ったお役人ふうなのをひとりまぜ、大商賈《おおどこ》の主人とも見える人体《じんてい》が四人、ゆったりと椅子にかけ、乾酪《チーズ》を肴に葡萄酒の杯をあげている。
ちょっと見には、くすんだくらいの実直《じっちょく》な着つけだが、仔細に見れば生粋《きっすい》の洋風好み、真似ようにも、ここまではちょいと手のとどかない、いずれも珍奇な好尚《こうしょう》。
里紗絹《リヨンぎぬ》の襦袢《じゅばん》に綾羅紗《あやらしゃ》の羽織。鏤美《ルビー》の指輪を目立たぬように嵌めているのもあれば、懐時計《ウォッチ》の銀鎖《ぎんぐさり》をそっと帯にからませているのもある。
この春、舶載《はくさい》したばかりの洋麻の蕃拉布《ハンドカチフ》を、競うようにひとり残らず首へ巻きつけ、襦袢の襟の下から、うす黄色い布色をチラチラとのぞかせている。
それもそのはず、ここに居おうのは開化五人組《かいかごにんぐみ》といわれる洋物屋の主人。
いずれも腐儒《ふじゅ》の因循《いんじゅん》をわらい、鎖港論《さこうろん》を空吹く風と聞き流し、率先《そっせん》して西洋事情の紹介や、医書、究理書の翻刻
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