顎十郎捕物帳
遠島船
久生十蘭

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)初鰹《はつがつお》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)伊豆|田浦岬《たうらざき》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「舟+夾」、185−下−2]
−−

   初鰹《はつがつお》

「船でい」
「おお、船だ船だ」
「鰹をやれ、鰹をやれ」
「運のいい畜生だ」
「おうい、和次郎ぬし、船だぞい、おも舵だ」
 文久二年四月十七日、伊豆国賀茂郡松崎村《いずのくにかものこおりまつざきむら》の鰹船が焼津《やいづ》の沖で初鰹を釣り、船梁《ふなばり》もたわむほどになって相模灘《さがみなだ》を突っ走る。八挺櫓《はっちょうろ》で飛ばしてくる江戸の鰹買船《かつおかいぶね》に三崎の沖あたりで行きあうつもり。
 ちょうど石廊岬《いろうざき》の端をかわし、右に神子元島《みこもとじま》の地方《じかた》が見えかかるころ、未申《ひつじさる》の沖あいに一艘の船影が浮かびあがって来た。
 海面は仄白《ほ
次へ
全30ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング