次郎さまの御一命にもかかわる場合、いわんやさまざまに作りごとされ、風評どおり源次郎さまが野伏乞食の児であったなどということになりましたら、いつわりの相続ねがいをさしあげたという廉《かど》により、軽くて半地《はんち》、重ければ源頼光《みなもとのよりみつ》以来の名家古河十二万五千石も嫡子ないゆえをもって、そのまま廃絶というきわどい場合、なにとぞ手前の辛苦をあわれと思召され、一日も早く源次郎さまの在所《ありか》をば……」
顎十郎はさすがに驚いたような顔つきで、石口十兵衛の顔を見かえしながら、
「なるほど、こりゃアえらいことになっている。あなたが骨が舎利《しゃり》になっても御主家の名を口外しまいと、突っぱったのも無理はない。源次郎とやらが乞食の児であったかないか、その真実はともかくとして、こんなことが老中にでも知れたら、古河の家領《かりょう》はどっちみち無事じゃアすみません。こいつはどうも、驚いた」
と、顎を撫でなで舌を巻いていたが、なにを思いだしたか頓狂な声で、
「それはそうと、ちょっとおうかがいしたいことがあります。そのお伝役の萩之進とやらが残して行ったという書きおきの文句は、いったい
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