かる。顎十郎が焦立って鳶のほうへむければむけるだけ、鳶はうるさそうにツイと身をかわして顎十郎のからす凧を避ける。
顎十郎はニヤニヤ笑いをしながら、
「どうです、藤波さん、烏凧にしるしがあるわけじゃあるまいし、妙に手前の凧を相手にしない。これはまた、いったい、どうしたというのでしょう」
藤波は思わず横手をうって、
「つまり、金座の凧にいわくがある!」
顎十郎はヘラヘラと笑いだして、
「そこまでおわかりになれば、なにもこの上、手間をかける必要はない。……この二日来、手前が観察したことを、まとめてここでご披露しましょう」
と、言葉を切り、
「……たぶん、もうお察しのように、手前がこの金座のちかくで凧をあげるのは今が最初じゃない、あの事件のあった日から、これで三度目。……ところで、ごらんの通り、手前のからす凧だけ鳶がよけて行く……てんで相手にもしないということを発見した。……これは妙だと思いましてね、あらためて金座の中へ入って子供にまじってあげて見た。……しかるにです、やっぱり手前の烏凧だけが相手にされない。……なぜ、こうなんだろうと、いろいろ観察してみると、手前の凧は、ほかの金座の凧
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