凧が下廻る烏凧ばかりねらうのも、じつにそのせいなんです」
藤波は、さすがに我を折って、
「いや、これはどうもなかなかのご明察」
顎十郎はかくべつ手柄顔もせず、
「論より証拠、ひとつ、分捕ってその実体をお目にかけますかな」
自分のからす凧を手ぢかの金座の烏凧のほうへむけて行き、雁木にからませてグイと引っきり、スルスルと手もとへひきよせ、つかんで来た烏凧の竹の骨を両手でへしおると、竹の骨のなかでキラリと光った黄金色《きんいろ》の細い線。……小判を純金に吹きわけて、金の針金にして凧の竹骨のなかに忍ばせてあった。
顎十郎は、へへん、と笑って、
「……さあ、藤波さん、早く行って小田原町のとんびをみんな召捕っておしまいなさい。早くしないと、空へ逃げてしまいますぜ。……それから、金蔵方の石井宇蔵、ほかに吹屋の棟梁がひとり……」
底本:「久生十蘭全集 4[#「4」はローマ数字、1−13−24]」三一書房
1970(昭和45)年3月31日第1版第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年12月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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