われましたが、それでは身体にあんな血の色は残らない、かならず蒼白くなってしまうはず。……ねえ、かくいう手前が見た時も、まだほんのり薄赤かったのだから、あなたがごらんになった時はさぞ赤かったろう。……いったい、これはなんだとお思いです……どういう死にかたをすれば、死んだあとも、あんな膚色をしているとお考えです」
藤波は、おいおい不安をまぜた険《けわ》しい顔つきになって、
「さア、それは……すると、なにか毒でも」
「おやおや、心細いですな。……あなたは、さきほど、この勝負は相引になったと言われたが、あなたがそれをご存じないとすりゃあ、どうも、引分けということにはならないようだ。……つまり、あなたの負けです」
と、ペラペラやっておいて、
「さらば、秘陰《ひいん》をときあかしましょうか。……なんてほどの大したこっちゃアない。……ねえ、藤波さん、千賀春は、炭火毒《すみどく》にあたって死んだんですよ。……おやおや、あんぐりと口をあいて。……あっけにとられましたか?……嘘だと思ったら、御嶽山《おんたけさん》へでも行った時、よく気をつけて見ていらっしゃい、石窟《いわむろ》の閉めきったところで炭火を
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