ノンシャラン道中記
燕尾服の自殺 ――ブルゴオニュの葡萄祭り――
久生十蘭

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)廻《めぐ》る

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)|渡り見世物《フォラン》師

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)久生十蘭全集 6[#「6」はローマ数字、1−13−26]
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 一、因果は廻《めぐ》る小屋馬車《ルウロット》の車輪。さわやかな初秋の風が吹きまわるある午後のこと、雛壇《ひなだん》のように作られた、ソオヌ谷の、目もはるかな見事な葡萄畑の下を、通常、「無宿衆《ノマアド》」と呼ばれる|渡り見世物《フォラン》師の古びた小屋馬車《ルウロット》が、やせた二匹の馬にひかれてのろのろと埃りをあげながら進んで行った。
 このあたりは、「オオル・リイニュ」とか、「タン・ド・クウヴ」などという名高い赤葡萄酒を産出するブウルゴオニュ州の西南の谷間で、ヴェニス提灯《ちょうちん》ほどもある大きな葡萄の房《ふさ》が互いに触れあってチリン・カリン
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