うし》を伸べる。光る若葉|山杜鵑《やまほととぎす》。
二、落ちては登る人魂《ひとだま》の復原運動。南は嶮山重畳のモン・ブラン群《マシッフ》と、氷河の蒼氷を溶かしては流すアルヴの清洌、北には雲母《きらら》張りの衝立《エクラン》のように唐突に突っ立ちあがるミデイ・ブラン、グレポンの光峰群《デ・セイギイユ》。この間の帯のような細長い谷底がシャモニイの町。
山の町と一口にいっても、ここは世界に著名《なだた》るアルプス山麓の大遊楽境、宏壮優雅な旅館《ホテル》・旗亭《レストオラン》が甍《いらか》をならべ、流行品店《グラン・モオド》、高等衣裳店《スチュディオ》、昼夜銀行に電気射撃、賭博館や劇場やと、至れり尽せりの近代設備が櫛比《しっぴ》して、誠に目を驚かすばかりの殷賑《はんじょう》、昼は犬を連れて氷河のそばで five o'clock tea、ホテルの給仕《バレエ》に小蒲団《クッサン》を持たせてブウシエの森でお仮睡《ひるね》。夜は MAJESTIC−PALACE の広間に翻る孔雀服《パウアンヌ》の裳裾《もすそ》、賭博館の窓からは、(|賭けたり、賭けたり《フェト・ヴォ・ジュウ・メッシュー》)という
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