=[トル》だけ頼むよ」「へえ、よろしい」「グウテを十米だよ」「おっと合点」ってわけで、お客様のお望みの寸法だけ差し上げるんですヨ。副事業として写真もやっておりますがね、せいぜい五米ぐらいの岩へぶらさがって、「おい、これで写真を一枚」とおっしゃれば、そこは手前の写真術で、五十米も切り立った岩壁へぶらさがって、あわや、危機一髪! てな工合に写して差しあげるんです「モン・ブランの絶頂を一枚たのむ」とご下命がありますとネ、こいつをラ・コートの小山の頂きへ持って行って、下から仰げば、これが(モン・ブランの絶頂でパイプを喫《す》う図)ってのになるわけですヨ。こいつが故郷《おくに》の土産《みやげ》になる価値といったら誠に莫大なもので、
[#ここから2字下げ]
苦心酸胆[#「苦心酸胆」に傍点]、×日×時×分、ついに
モン・ブランを征服す。
[#ここで字下げ終わり]
なんて、ちょっと書き入れておけば、一生の記念になるってもんじゃありませんか。いかがでしょう。この際格別勉強いたしますヨ。モン・ブランを十米ばかりいかがさまでしょう。なアに、危ないことなんかありますものか。一体、山から落ちるってエますのは、落
前へ 次へ
全32ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング