ノンシャラン道中記
アルプスの潜水夫 ――モンブラン登山の巻
久生十蘭
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)鉱泉《レ・バン》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)弟|御《ご》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)久生十蘭全集 6[#「6」はローマ数字、1−13−26]
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一、鼻には鼻、耳には耳――現品取引。エークス鉱泉《レ・バン》駅に約十分滞留したのち、汽車はブウルジェの湖畔の、水陸間一髪という際《きわ》どいところを走っている。
車窓に蘆《あし》の葉がなびき、底石の青苔や、御遊泳中の魚族《うろくづ》の鱗《うろこ》のいろも手にとるように見える。対岸、オオト・コムブの鬱蒼《うっそう》たる樅《もみ》の林は、そのまま水に姿を映し、湖上の小舟《サコレーヴ》は、いまやその林中に漕ぎいるのである。
汽車は水に浮び、舟は山に登る、この意外な環境に恐悦してしきりに喝采しているのは、登山用具で身をかためた男女二人の若い東洋人。幾百千とも知れぬ小魚が
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